クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群(成人)

指定難病:診断基準・重症度分類

診断基準

 クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の診断は、(I)脈管奇形診断基準に加えて、後述する(II)細分類診断基準にてクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群と診断されたものを対象とする。鑑別疾患は除外する。

(I)脈管奇形(血管奇形およびリンパ管奇形)診断基準

  • 軟部・体表などの血管あるいはリンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など、構造の異常から成る病変で、理学的所見、画像診断あるいは病理組織にてこれを認めるもの。
  • 本疾患には静脈奇形(海綿状血管腫)、動静脈奇形、リンパ管奇形(リンパ管腫)、リンパ管腫症・ゴーハム病、毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)および混合型脈管奇形(混合型血管奇形)が含まれる。

鑑別診断

  1. 血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患
    例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など
  2. 明らかな後天性病変
    例)一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など

(II)細分類

   クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群診断基準
   四肢のうち少なくとも一肢のほぼ全域にわたる混合型脈管奇形と片側肥大症を合併するもの。

必須所見

  1. 四肢のうち少なくとも一肢のほぼ全域にわたる混合型脈管奇形。
  2. 混合型脈管奇形の同肢または対側肢の骨軟部組織の片側肥大症。
  3. 皮膚の毛細血管奇形のみが明瞭で、深部の脈管奇形が検査(画像または病理)上不明であるものは除外。
  4. 深部の脈管奇形により四肢が単純に太くなっているものは対象から除外。
  5. 明らかな後天性病変(一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫)は対象から除外。

該当事業における対象基準

  1. 毛細血管奇形、静脈の異常(二次性静脈瘤を含む)、一肢の骨・軟部組織の片側肥大が古典的三徴であるが、静脈異常は小児期には明らかでないことが多い。
  2. 片側肥大はほとんどが脈管奇形と同側に生じるが、まれに対側に生じる。
  3. 合指(趾)症や巨指(趾)症などの指趾形成異常を合併することがある。
  4. 混合型脈管奇形とは、静脈奇形、動静脈奇形、リンパ管奇形、毛細血管奇形の2つ以上の脈管奇形が同一部位に混在合併するもの。
  5. 動静脈奇形の診断は四肢巨大動静脈奇形診断基準参照。
  6. 静脈奇形の診断は以下により得られる。
    画像検査上病変を確認することは必須である。1の画像検査所見のみでは質的診断が困難な場合、2あるいは3を加えて診断される。

    1. 画像検査所見
      超音波検査、MRI 検査、血管造影検査(直接穿刺造影あるいは静脈造影)、造影 CT のいずれかで、拡張または集簇した分葉状、海綿状あるいは静脈瘤状の静脈性血管腔を有する病変を認める。内部に緩徐な血流がみられる。内部に血栓や石灰化を伴うことがある。
    2. 理学的所見
      腫瘤状あるいは静脈瘤状であり、表在性病変であれば青色の色調である。圧迫にて虚脱する。四肢病変は下垂あるいは駆血にて膨満し、拳上あるいは駆血解除により虚脱する。血栓形成の強い症例などでは膨満や虚脱の徴候が乏しい場合がある。
    3. 病理所見
      拡張した血管の集簇がみられ、血管の壁には弾性線維が認められる。平滑筋が存在するが壁の一部で確認できないことも多い。成熟した血管内皮が内側を覆う。内部に血栓や石灰化を伴うことがある。
  7. リンパ管奇形の診断は以下により得られる。
    生下時から存在し、以下の1、2、3、4のすべての所見を認め、かつ5の(a)または(b)または(c)を満たす病変。

    1. 理学的所見
      圧迫により変形するが縮小しない腫瘤性病変を認める。
    2. 画像所見
      超音波検査、CT、MRI 等で、病変内に大小様々な 1 つ以上の嚢胞様成分が集簇性もしくは散在性に存在する腫瘤性病変として認められる。嚢胞内部の血流は認めない。
    3. 嚢胞内容液所見
      リンパ(液)として矛盾がない。
    4. 除外事項
      奇形腫、静脈奇形(海綿状血管腫)、被角血管腫、他の水疱性・嚢胞性疾患等が否定されること。
    5. 補助所見
      1. 理学的所見
        深部にあり外観上明らかでないことがある。
        皮膚や粘膜では丘疹・結節となり、集簇しカエルの卵状を呈することがあり、ダーモスコピーにより嚢胞性病変を認める。
        経過中病変の膨らみや硬度は増減することがある。
        感染や内出血により急激な腫脹や疼痛をきたすことがある。
        病変内に毛細血管や静脈の異常拡張を認めることがある。
      2. 病理学的所見
        肉眼的には、水様ないし乳汁様内容液を有し、多嚢胞状または海綿状割面を呈する病変。組織学的には、リンパ管内皮によって裏打ちされた大小さまざまな嚢胞状もしくは不規則に拡張したリンパ管組織よりなる。腫瘍性の増殖を示す細胞を認めない。
      3. 嚢胞内容液所見
        嚢胞内に血液を混じることがある。
  8. 毛細血管奇形とは、いわゆる赤あざであり、従来単純性血管腫、ポートワイン母斑などと呼称されている病変。皮膚表在における毛細血管の先天性の増加、拡張を認め、自然消褪を認めないもの。

重症度分類

指定難病に承認された重症度分類(日本形成外科学会・日本 IVR 学会承認)に準じる。  ①、②のいずれかを満たすものを対象とする。   

  1. modified Rankin Scale(mRS)の評価スケールを用いて、3以上を対象とする。   
  2. 以下の出血、感染に関するそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。 

以下の出血、感染に関するそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。

出血

  1. ときおり出血するが日常の務めや活動は行える。
  2. しばしば出血するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。
  3. 出血の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって出 血予防・止血が得られるもの。
  4. 致死的な出血のリスクをもつもの、または、慢性出血性貧血のため月一回程度の輸血を定期的に必要とす るもの。
  5. 致死的な出血のリスクが非常に高いもの。  

感染

  1. ときおり感染を併発するが日常の務めや活動は行える。
  2. しばしば感染を併発するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。
  3. 感染・蜂窩織炎の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、 治療 によって感染症状の進行を抑制できるもの。
  4. 敗血症などの致死的な感染を合併するリスクをもつもの。
  5. 敗血症などの致死的な感染を合併するリスクが非常に高いもの。

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