メディカル・ソーシャルワーカー
葛田 衣重
(千葉大学医学部附属病院 地域医療連携部)
難病事業は昭和47 年にスタートし、以来44 年を経て難病法が成立、対象疾患は330 を超えるまでになった。希少難病医療に携わる医師の皆様への期待、特に原因因子の研究、究明が治療に結び付くことへの期待は、当事者の方々も非常に大きい。同時に、さまざまな環境で生活している当事者の生きづらさの緩和や軽減は不可欠であって、この制度本来の目的である長期療養生活の支援が置き去りにされてしまうのではないか、という不安を思う当事者、関係者も少なくない。当事者の生活を支援するという社会福祉的な視点から、指定難病制度の利用促進と社会保障の制度について、医療関係者に期待される役割について要約する。遺伝性疾患の患者さんは多くの診療科を受診することが多く、特に経済的な基盤が確立していない若い世代では医療費の負担が大きくなる傾向がある。また、就労している方で徐々に身体機能や認知機能が低下するような場合には、それまで担っていた業務が困難となり、配置換えや退職を余儀なくされることが少なくない。特に先天性疾患では、小児期には問題とされなかったような事柄が、就労や結婚、育児などの社会・家庭生活において顕著となり、それまでサポートをしていた両親の高齢化や死去に伴い問題として発展する傾向がある。成人以降に発症した方にとってみると、遺伝性疾患の確定診断は、本人のみならず家族、親族の生活、人生、価値に大きな影響を及ぼして、長期にわたる支援が必要と考えられる。指定難病制度には患者さんの医療費負担を軽減するという側面が大きくある。これに関しては、特定医療費受給者証を取得することで、その疾患にかかる医療費の負担が軽減できる。認定のためには、難病指定医による臨床調査個人票が必要である。
指定難病制度には、医療費の負担軽減とともに生活を支えるという側面がある。生活を支える側面に関しての要件は、特定医療費受給者証を必要とせず、診断確定を証明する診断書等があれば、障害者総合支援法による障害福祉サービスが利用できる。障害者総合支援法成立以前は、難病においては症状が固定するという考え方が馴染みにくく、身体障害者として障害福祉サービスを利用することが困難であった。しかし難病指定制度が始まり、総合支援法が成立したことにより、このサービスを利用することが可能となった。介護給付、つまりヘルパーさんを使う、デイサービスに行くといったことについては意見書が必要だが、この意見書は指定難病の医師に限らず作成できる制度になっている。
次に、特に難病の患者さんたちが利用できる指定難病制度以外の社会保障制度全体に関して幾つか説明する。
障害年金
障障害年金は所得を保障するものとして重要な制度である。障害認定日は、初診日から1 年6 カ月経った時点とし、その時点での年金診断書が必要になる。二十歳前の発症者の場合、二十歳のときを障害認定日としてその時点での年金診断書を作成する。年金診断書は、医師なら誰でも作成できるが、その記載により等級が決定されうるため本人の生活と疾患の関係を熟知している医師によることが望ましい。具体的には、本人の病態、本人がどのような生活をしているか(生活能力)、疾患が生活に及ぼす影響がどういうものであるか。就労については、どのような仕事なら可能か、どのようなことは不可能か(就労能力)ということを詳しく反映させる必要がある。
身体障害者手帳
以前には、難病の患者さんが身体障害者手帳を取得するまでに長い年月を要したり、手帳に該当しないと判断される場合が多かった。しかし、現在では身体障害者手帳を取得できない場合にも障害福祉サービスが利用できるようになった。
身体障害者手帳のサービスは非常に幅広く、医療費助成だけでなく、日常生活用具(車椅子や介護ベッドのような生活上に使う用具)の給付、在宅生活の支援、移動費の助成、就労支援など、幅広い分野をカバーしている。
介護保険
介護保険は65 歳以上の方は原因を問わず、40 歳以上から64 歳までは老化が原因とされる病気により介護認定される。介護保険の医師意見書が必要になるが、これも医師なら誰でも作成できる。申請書には患者本人が主治医の名前を書く欄があり、記載された医師が意見書を作成する。
就労支援
就労支援は指定難病に限らず「治療しながら仕事を続ける・仕事に就く」ことに国がさらに力を入れており、医療福祉分野を超えて非常に重要なテーマとなってゆくであろう。特定疾患の就労支援は治療研究事業の時代から始まっていたが、就労可能な難病患者さんが、いろいろなストレスはありながらもモチベーションを持って仕事を続けていけるように、職場をはじめ関係する機関がトータルに支えていく社会をめざす方向にある。ハローワークに難病患者就労サポーターが配置され、各都道府県に設置されている難病相談支援センターと連携しながら、難病の方々の就労を支援している。今までは生活が中心だったが、今後は治療と就労の両立のために医療と労働の連携のあり方が大きな課題になってきている。
病気や障害による社会生活の課題を支援する社会保障制度の利用には、診断書や意見書が必要である。指定難病制度では、臨床調査個人票が必要であり、身体障害者手帳・介護保険では医師の意見書、障害年金では年金診断書が必要である。診断書の作成には、本人の病態、生活のしづらさを熟知している医師が担うのが適切である。診断書の作成にあたっては、本人の生活の様子がよく分かっている、さらに本人がもし制度を使う場合には、どんな利用の仕方になるかという具体的なイメージを診断書に反映させる・記載できるかということが決定的である。そして診断書作成には、担当医師のみならず各診療科の先生方が連携し、遺伝カウンセラー、ソーシャルワーカー、看護師など専門性の異なる多職種が役割分担をして一緒に検討していくことが望ましい。
※本稿は、平成28 年10 月に全国遺伝子医療部門連絡会議大会において葛田氏にご講演いただいた際の草稿を、本冊子のために編集したものである。講演は、遺伝性疾患の指定難病の患者さんの指定難病の利用促進に関するものであったため、対象を先天異常症候群に限った場合には、そぐわない内容もあるが、指定難病制度には、医療費の支援とともに生活を支えるという側面があるという葛田氏の要旨を伝えるべく、ここに掲載させていただいた。