近年の人口動態統計によれば先天異常は乳幼児期(0~4 歳)における死亡原因の第1 位を占めています。また、入院を要する小児患者の50% 程度は、背景に先天異常を有しています。先天異常を有する患者は、1箇所のみに形態異常を有する場合と、複数部位に形態異常を認める場合があります。従来、後者のような患者を多発奇形症候群と総称していました。「奇形」という用語の使用を控える動向から、先天異常症候群と称されるようになってきています。
先天異常症候群を正確に診断できれば、疾患に特徴的な自然歴をふまえた合併症のスクリーニングと予防的対応・不必要な侵襲的検査の回避など、患児の健康管理に役立てることができます。また、家族内再発の可能性と出生前診断など遺伝カウンセリングに関する情報を提供できます。喜ばしいことに、近年、多くの疾患が小児慢性特定疾病や指定難病として対象疾患となりました。このため確定診断がつくことで、患者さんが指定難病医療給付制度や、小児慢性特定疾病医療費助成制度に基づく行政による医療支援を受けることができる可能性が開かれました。
このように先天異常症候群領域について、国内外においてさまざまな研究や社会的な取り組みが進められていますが、研究成果や関連情報は各種の論文・書籍・ウェブサイト等に分散して提供されているのが現状です。そこで代表的な先天異常症候群を中心に、小児科医や臨床遺伝専門医の先生方の日常診療を支援する目的で、予防的医療管理のポイントと行政支援に関する情報をとりまとめました。
各種診断基準や診療のポイントの提案やとりまとめに際しましては、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業「先天性異常の疾患群の診療指針と治療法開発をめざした情報・検体共有のフレームワークの確立」および厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討研究班」の先生方のみならず、日本小児遺伝学会 理事会・学術ネットワーク委員会、日本先天異常学会 先天異常症候群診断指針ワーキンググループ、日本人類遺伝学会の先生方および厚生労働省難病対策課(旧疾病対策課)・国立成育医療研究センター小児慢性特定疾病情報室・医薬基盤・健康・栄養研究所・国立保健医療科学院の先生方、日本小児神経学会・日本小児整形外科学会の先生方に多大なるご指導を賜りました。心より御礼申し上げます。
是非、先生方の診察室の机上において、先天異常症候群の患者さんの診療のためにお使いいただければ幸いです。
平成29年3月
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業
国際基準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討研究班
研究代表者日本小児遺伝学会理事長
慶應義塾大学医学部・臨床遺伝学センター長・教授
小崎健次郎