指定難病
広辞苑によれば難病とは「治り難い病気」とされている。一方で、行政上の用語としての難病の定義はもう少し厳密に決められている。現在の難病政策は平成27 年1 月1 日施行の「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づいている。この法律の中では、難病は、1)発病の機構が明らかでなく、2)治療方法が確立していない、3)希少な疾患であって、4)長期の療養を必要とするもの、という4つの条件を必要としている。さらに医療費助成の対象とすることが決まっている疾患は新たに「指定難病」と呼ばれ、上記の4 要件に加えて5)患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しないこと、6)客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立していること、という追加の2 条件が決められ、厚生科学審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定している。指定難病の診断基準については、行政的上の公平性の見地から、十分な感度を有しつつ、特異度が高くなるように設定が行われている。個々の患者さんが指定難病としての認定を受け、医療費助成の対象となるのは、原則として「指定難病」の診断基準を満たし、指定難病毎に設定されている「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定程度以上の場合に限られる。重症度分類は個々の指定難病の特性に応じ、日常生活または社会生活に支障があると医学的に判断される程度とされている。
先天異常症候群領域では、平成27 年にチャージ(CHARGE)症候群・ルビンシュタイン・テイビ(Rubinstein-Taybi)症候群、シー・エフ・シー(CFC)症候群・コステロ症候群が指定難病となった。これらの疾患が小児慢性特定疾病に指定されるとともに、他の多くの先天異常症候群も小児慢性特定疾病に指定され、並行する形で指定難病となった。小児期の難病は主として小児慢性特定疾病制度下で、成人期の難病は主として指定難病の制度下で行政支援が行われることとなっている。
申請手続きについて
認定申請手続きの概略は難病情報センターの手続きに示されている通りである。
http://www.nanbyou.or.jp/
①都道府県における事務手続き
- 臨床個人調査票をもとに、診断基準に照らして、指定難病であることを確認
- 病状の程度が、一定程度であることを重症度分類等に照らして確認
⇒以上2 点が確認できた場合には認定
②指定難病審査会における手続き
- 上記2 点が確認できなかった場合には都道府県に設置された指定難病審査会での審査が行われる。
⇒指定難病審査会で上記2 点が確認された場合には認定
⇒指定難病審査会の審査の結果、支給要件に該当しないと判断された場合には、認定しない旨を通知
申請に際しては、疾患毎に決められた臨床個人調査票が用いられる。この臨床個人調査票の記入項目の一部が、診断基準および重症度分類の要件をどの程度充足しているかを判断する項目となっている。臨床個人票調査票には、疫学的情報収集の観点から、診断基準・重症度分類以外の項目についても記載欄が設けられている。
本手引きには先天異常症候群のうち、指定難病として扱われている疾患の診断基準・重症度分類・臨床個人調査票を掲載した。先天異常症候群の多くは指定難病の対象となっていなかったが、平成21 年度から各種の研究事業が行われた結果、平成21 年度より一部の疾患が指定難病となった。2017 年3 月時点における306 疾病の総数は306 であり、2017 年4 月に24 疾患が追加される予定である。半数程度が単一遺伝子病である。なお、平成29 年度から「先天異常症候群」が指定難病となり、1q 部分重複症候群(1q 重複症候群)、9q34 欠失症候群、コルネリア・デランゲ症候群、スミス・レムリ・オピッツ症候群の4 疾患が含まれることになった。チャージ(CHARGE)症候群等は先天異常症候群の一種であるが、制度上は、チャージ(CHARGE)症候群のように個別の疾患名で認定されている疾患と「先天異常症候群」という総称で並列した形になっている。
小児慢性特定疾病
従来、指定難病の制度は主に成人をカバーしてきた。一方、小児年齢(出生時~ 20 歳)の希少・難治性疾患に対しては歴史的に児童福祉法に基づく小児慢性特定疾病医療費助成制度による支援が行われてきた。
小児慢性特定疾病とは以下の要件の全てを満たすもののうちから、厚生労働大臣が定めるものを指す。
- 慢性に経過する疾病であること
- 生命を長期に脅かす疾病であること
- 症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること
- 長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること
18 歳未満の児童を対象とするが、18 歳到達後も引き続き治療が必要と認められる場合には、20 歳未満の者を含むとされている。
指定難病では、「希少な疾患である」ことが要件に含まれているが、小児慢性特定疾病の要件には、希少性は含まれていない。難病政策について小児期から成人期への切れ目のないトランジションの実現が期待される。
対象疾患群は以下の14 群に分かれており、多くの先天異常症候群は(13)染色体または遺伝子に変化を伴う症候群に含まれている。一部は(11)神経・筋疾患、(5)内分泌疾患、(14)皮膚疾患に含まれている。
<対象疾患群>
- (1)悪性新生物
- (2)慢性腎疾患
- (3)慢性呼吸器疾患
- (4)慢性心疾患
- (5)内分泌疾患
- (6)膠原病
- (7)糖尿病
- (8)先天性代謝異常
- (9)血液疾患
- (10)免疫疾患
- (11)神経・筋筋疾患
- (12)慢性消化器疾患
- (13)染色体または遺伝子に変化を伴う症候群
- (14)皮膚疾患
なお、一般に染色体異常症は、先天異常症候群のカテゴリーに含まれる。小児期においては、アンジェルマン(Angelman)症候群、5p- 症候群、4p- 症候群、18 トリソミー症候群、13 トリソミー症候群、ダウン(Down)症候群、ウィリアムズ(Williams)症候群、プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群が独立して、小児慢性特定疾病となっている。上記に掲げた以外の常染色体異常症は、「常染色体異常症」に含まれる。Ⅰ.指定難病・小児慢性特定疾病の制度と診断基準 19この場合、G バンド法やFISH 検査で異常が同定される場合も含まれる。G バンド法やFISH 検査は健康保険による外注検査の実施が可能である。マイクロアレイ染色体検査で常染色体上の微細な重複もしくは欠失が認められる場合も含まれる。ただし、マイクロアレイ染色体検査は保険による外注検査は現時点では不可能であることから普及はしていない。また認められた構造異常が臨床症状を説明しうる場合だけが該当する(コピー数の正常多型は対象から除外される)。インプリンティング異常症は「常染色体異常症」に含まれることとなっている。インプリンティング異常症のうち、アンジェルマン(Angelman)症候群、プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群、ベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群は独立した疾患として小児慢性特定疾病として認められている。アンジェルマン(Angelman)症候群、プラダー・ウィリ(Prader-Willi)症候群については健康保険によるメチル化検査の外注検査実施が可能である。シルバー・ラッセル症候群や14番染色体片親性ダイソミーはメチル化検査等で異常を認める場合に、常染色体異常症のカテゴリーで扱われる。
難病医療費助成制度における指定医制度について
「難病の患者に対する医療等に関する法律」の成立を受け、平成27 年1 月1 日から新たな難病医療費助成制度が実施されている。平成27 年1 月1 日以降、難病患者の方が特定医療費の支給認定申請を行う際には、都道府県知事の定める医師(「指定医」)が作成した臨床調査個人票(診断書)が必要である。指定医以外の医師が作成した臨床調査個人票(診断書)は認められない。なお、指定医には「難病指定医」と「協力難病指定医」の2 種類があり、作成できる臨床調査個人票(診断書)の範囲が異なる。
難病医療費助成制度の指定医
- アレルギー専門医
- 消化器外科専門医
- リウマチ専門医
- 消化器病専門医
- リハビリテーション科専門医
- 心臓血管外科専門医
- 外科専門医
- 神経内科専門医
- 感染症専門医
- 腎臓専門医
- 肝臓専門医
- 整形外科専門医
- 眼科専門医
- 生殖医療専門医
- 救急科専門医
- 精神科専門医
- 形成外科専門医
- 脊椎脊髄外科専門医
- 血液専門医
- 総合内科専門医
- 呼吸器外科専門医
- 糖尿病専門医
- 呼吸器専門医
- 頭頸部がん専門医
- 産婦人科専門医
- 内分泌代謝科(内科・小児科・産婦人科)専門医
- 耳鼻咽喉科専門医
- 脳神経外科専門
- 手外科専門医
- 泌尿器科専門医
- 周産期(新生児)専門医
- 皮膚科専門医
- 周産期(母体・胎児)専門医
- 病理専門医
- 周産期専門医
- 婦人科腫瘍専門医
- 集中治療専門医
- 放射線科専門医
- 循環器専門医
- 放射線治療専門医
- 小児科専門医
- 放射線診断専門医
- 小児外科専門医
- 麻酔科専門医
- 小児血液・がん専門医
- 臨床検査専門医
- 小児循環器専門医
- 老年病専門医
- 小児神経専門医
小児慢性特定疾病指定医について
小児慢性特定疾病の医療費助成制度では、医療費助成の申請のための医療意見書を作成する医師は、予め都道府県知事等に指定された「指定医」であることと定められている。以下を参照の上、勤務先の医療機関の所在地を管轄する都道府県知事・指定都市市長・中核市市長に申請を行う。
指定医の要件
「指定医」は、以下のいずれかの要件を満たす医師であること。
① 疾病の診断又は治療に5 年以上※ 1 従事した経験があり、関係学会の専門医※ 2 の認定を受けていること。
② 疾病の診断又は治療に5 年以上※ 1 従事した経験があり、都道府県等が実施する研修を修了していること。
※ 1 医師法(昭和23 年法律第201 号)に規定する臨床研修を受けている期間を含む。
※ 2(参考)社団法人日本専門医制評価・認定機構では、基本領域18 専門医制度とSubspecialty領域29 専門医制度(H26 年9 月末現在)を承認している。
小児慢性特定疾病の医療費助成制度の指定医
- アレルギー専門医
- 消化器病専門医
- リウマチ専門医
- 心臓血管外科専門医
- リハビリテーション科専門医
- 神経内科専門医
- 外科専門医
- 腎臓専門医
- 感染症専門医
- 整形外科専門医
- 肝臓専門医
- 生殖医療専門医
- 眼科専門医
- 精神科専門医
- 救急科専門医
- 脊椎脊髄外科専門医
- 形成外科専門医
- 総合内科専門医
- 血液専門医
- 糖尿病専門医
- 呼吸器外科専門医
- 頭頸部がん専門医
- 呼吸器専門医
- 内分泌代謝科(内科・小児科・産婦人科)専門医
- 産婦人科専門医
- 脳神経外科専門医
- 耳鼻咽喉科専門医
- 泌尿器科専門医
- 手外科専門医
- 皮膚科専門医
- 周産期(新生児)専門医
- 病理専門医
- 集中治療専門医
- 婦人科腫瘍専門医
- 循環器専門医
- 放射線科専門医
- 小児科専門医
- 放射線治療専門医
- 小児外科専門医
- 放射線診断専門医
- 小児血液・がん専門医
- 麻酔科専門医
- 小児循環器専門医
- 臨床検査専門医
- 小児神経科専門医
- 老年病専門医
- 消化器外科専門医
指定難病・小児慢性特定疾病の管理料の算定について
指定難病・小児慢性特定疾病について病名および重症度が「特定医療費の支給基準に係わる基準」を満たすことを、患者が受診する保険医療機関の医師が診断したが、受給者証の交付を受けていない場合がある。例えば、患者が乳幼児・こども医療費の助成の対象となっている場合である。医師が、病名および重症度が基準を満たすことを客観的な根拠とともに医学的に明確に診断できる場合には、一定の要件を満たせば指定難病・小児慢性特定疾病の管理料の算定が可能である。
平成28 年度 診療報酬点数 医科より引用
(下線は編者による)
B001 7 難病外来指導管理料 270 点
注
- 入院中の患者以外の患者であって別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とするものに対して、計画的な医学管理を継続して行い、かつ、治療計画に基づき療養上必要な指導を行った場合に、月1回に限り算定する。
- 区分番号A000に掲げる初診料を算定する初診の日に行った指導又は当該初診の日から1月以内に行った指導の費用は、初診料に含まれるものとする。
- 退院した患者に対して退院の日から起算して1月以内に指導を行った場合における当該指導の費用は、第1章第2部第1節に掲げる入院基本料に含まれるものとする。
- 区分番号B000に掲げる特定疾患療養管理料又は区分番号B001の8に掲げる皮膚科特定疾患指導管理料を算定している患者については算定しない。
通知
- 難病外来指導管理料は、別に厚生労働大臣が定める疾病を主病とする患者に対して、 治療計画に基づき療養上の指導を行った場合に、月1回に限り算定する。
- 第1回目の難病外来指導管理料は、区分番号「A000」初診料を算定した初診の日 又は当該保険医療機関から退院した日からそれぞれ起算して1か月を経過した日以降に 算定できる。
- 別に厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者にあっても、実際に主病を中心とし た療養上必要な指導が行われていない場合又は実態的に主病に対する治療が行われていない場合には算定できない。
- 診療計画及び診療内容の要点を診療録に記載する。
- 電話等によって指導が行われた場合は、難病外来指導管理料は算定できない。
B001_05 小児科療養指導料 (270 点)
注
- 別に厚生労働大臣が定める基準を満たす小児科を標榜する保険医療機関において、小児科を担当する医師が、慢性疾患であって生活指導が特に必要なものを主病とする15 歳未満の患者であって入院中以外のものに対して、必要な生活指導を継続して行った場合に、月1回に限り算定する。ただし、区分番号B0 00に掲げる特定疾患療養管理料、区分番号B001の7に掲げる難病外来指導管理料又は区分番号B001の18 に掲げる小児悪性腫瘍患者指導管理料を算定している患者については算定しない。
- 区分番号A000に掲げる初診料を算定する初診の日に行った指導又は当該初診の日の同月内に行った指導の費用は、初診料に含まれるものとする。
- 入院中の患者に対して行った指導又は退院した患者に対して退院の日から起算して1月以内に行った指導の費用は、第1章第2部第1節に掲げる入院基本料に含まれるものとする。
- 第2部第2節第1款在宅療養指導管理料の各区分に掲げる指導管理料又は区分番号B001の8に掲げる皮膚科特定疾患指導管理料を算定すべき指導管理を受けている患者に対して行った指導の費用は、各区分に掲げるそれぞれの指導管理料に含まれるものとする。
通知
- 小児科を標榜する保険医療機関のうち、他の診療科を併せ標榜するものにあっては、 小児科のみを専任する医師が一定の治療計画に基づき療養上の指導を行った場合に限り 算定するものであり、同一医師が当該保険医療機関が標榜する他の診療科を併せ担当している場合にあっては算定できない。ただし、アレルギー科を併せ担当している場合は この限りでない。
- 小児科療養指導料の対象となる疾患は、脳性麻痺、先天性心疾患、ネフローゼ症候群、 ダウン症等の染色体異常、川崎病で冠動脈瘤のあるもの、脂質代謝障害、腎炎、溶血性貧血、再生不良性貧血、血友病及び血小板減少性紫斑病並びに児童福祉法第6条の2第1項に規定する小児慢性特定疾病(同条第2項に規定する小児慢性特定疾病医療支援の対象に相当する状態のものに限る。)であり、対象となる患者は、15 歳未満の入院中の患者以外の患者である。また、出生時の体重が1,500 g未満であった6歳未満の者についても、入院中の患者以外の患者はその対象となる。
- 小児科療養指導料は、当該疾病を主病とする患者又はその家族に対して、治療計画に 基づき療養上の指導を行った場合に月1回に限り算定する。ただし、家族に対して指導を行った場合は、患者を伴った場合に限り算定する。
- 第1回目の小児科療養指導料は、区分番号「A000」初診料を算定した初診の日の 属する月の翌月の1日又は当該保険医療機関から退院した日から起算して1か月を経過 した日以降に算定する。
- 指導内容の要点を診療録に記載する。
- 再診が電話等により行われた場合にあっては、小児科療養指導料は算定できない。